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米ロサンゼルス 実際の感染者数は公式発表の最大55倍=44万人超 抗体検査の結果発表

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
LAではドライブスルーの抗体検査が実施された。写真:news.usc.edu

 無症状感染者が25%〜50%いると推定されている新型コロナウイルス 。

 アメリカでは、今、実際にどれだけの感染者がいるかを把握すべく、各地で抗体保有者調査が進められている。

LAの実際の感染者数は最大44万人超

 米国時間4月20日、新型コロナウイルスの抗体保有者調査を行っていたロサンゼルス郡は第1フェーズの調査結果を発表した。その結果、新型コロナウイルスの実際の感染者数が公式感染者数よりはるかに多いことが明らかになった。

 4月9日時点で、成人の約4%(2.8%〜5.6%)が、血中に抗体を持っていることが判明したのだ。これは、ロサンゼルス郡の人口約980万人中、22万1000人〜44万2000人の成人が感染していたことを意味しているという。

 ちなみに、調査を行った4月初旬のロサンゼルス郡の公式感染者数は8000人に満たなかった。つまり、実際には、公式感染者数の28〜55倍超の感染者がいることになる。

実際の感染者数は公式発表の最大85倍

 ロサンゼルス郡の結果は、3日前、米スタンフォード大学が出した抗体保有者調査の予備調査結果を裏づけている。

 同大学は、4月初旬に、カリフォルニア州サンタクララ郡(シリコンバレーの中に位置する)の住民3300人の血液を調査、その結果、66人に1人が新型コロナに過去に感染していたことがわかった。この結果から、同大学は、同郡の約200万人の住民の2.5%〜4.2%にあたる4万8000人〜8万1000人が感染していたと推定しており、この数は、同時期に同郡で確認された公式感染者数の50倍〜85倍に相当するという。

 現在、アメリカでは新型コロナの検査は重い症状を見せている人々が優先的に行われている。ロサンゼルス郡やスタンフォード大学の調査結果は、大規模検査が行われていないために、見逃されている無症状感染者や検査が受けられずにいた軽症の感染者が多数いることを証明していると言っていい。

 調査は、血中のウイルスに対する抗体を検出する抗体検査キットを使って行われた。この検査では、無症状であっても、少なくとも1週間以上前に感染した感染者に抗体反応が現れるという。

 類似した抗体検査はドイツでも行われ、4月9日に結果が出されている。人口1万2000人のある村で、住民500人に抗体検査を行ったところ、7人に1人が感染していたことがわかった。研究者らがこの結果と他の検査法を使って得た感染者数を組み合わせたところ、その村の住民の感染率は15%だった。

検査数が少なく、検査対象に偏り

 もっとも、抗体保有者調査はその信頼性を問題視する声もあがっている。検査人数が少ないため、結果の正確性が疑問視されているのだ。

 ロサンゼルス郡の場合、第1フェーズの抗体検査を受けたのは863人と予定されていた1000人に満たなかった。抗体検査では“偽陽性”と出ることもあるため、感染率が実際より高くなる可能性があり、正確な結果を得るには、多数の抗体検査をする必要があるという。ロサンゼルス郡は、第2フェーズの抗体検査ではより多くの抗体検査を行い、ヒスパニック系やアジア系の人々の抗体検査にも力を入れるという。

 調査対象の偏りという問題も指摘されている。スタンフォード大の抗体検査を受けた人々は、富裕層の白人女性が多く、ヒスパニック系やアジア系の住民も居住するサンタクララ郡の人口統計を反映していないという声がある。

 また、スタンフォード大の場合、抗体検査希望者がフェイスブックを通じて集められたことも問題視されている。検査希望者は新型コロナに曝された可能性があるという理由で、検査を希望した人が多いと推測されるからだ。

 一方、ロサンゼルス郡は、マーケティング会社を使って、ランダムに抗体検査を行った。

経済再開の決め手に

 米国時間4月19日には、ニューヨーク州のクオモ知事も大規模抗体検査に乗り出すと発表した。

 経済再開を叫ぶ声が上がる中、抗体検査は、州や郡などの自治体にとって、外出禁止令を解除し、経済を再開させるタイミングを測るバロメーターになる。

 抗体検査で実際の感染者数を把握することで、「集団免疫」を達成するのにどれだけの時間がかかるかを予測することも可能になる。「集団免疫」とはある感染症に対して多くの人が免疫を獲得すると、免疫を持たない人に感染が及ばなくなるという状態。ちなみに、新型コロナの場合、「集団免疫」を達成するには、少なくとも人口の50%〜60%が免疫を獲得する必要があるといわれている。

 また、抗体検査により、より正確な致死率を得ることもできるという。現在、致死率は、感染者数に基づいて算出されているが、致死率は感染者数が増えるほど低くなる。

 今回、スタンフォード大が抗体検査の結果得た推定感染者数をもとに致死率を計算したところ、サンタクララ郡の致死率は0.12〜0.2%となった。ロサンゼルス郡の場合も、今回の調査結果から、致死率は0.1〜0.2%と発表した。ちなみに、季節性インフルエンザの致死率は0.1%である。

抗体保有=免疫あり、は不明

 アメリカが力を入れる抗体保有者調査。

 しかし、WHO(世界保健機関)のエキスパートは、抗体検査で免疫の実態を測るのは時期尚早だと警告している。

「抗体検査で抗体を持っていることがわかっても、それは、免疫を有している証拠や再感染をしないという証明にはなりません」(WHO新興感染症セクションのチーフ代理のマリア・ヴァン・カークホヴ氏)

 つまり、抗体検査では、抗体保有者にどの程度の免疫ができているかは、まだわからないというのだ。

 抗体検査で抗体を保有していることがわかっても、安心できないわけである。そんな抗体保有者ワーナー氏の声を米紙ロサンゼルス・タイムズが紹介している。

 ワーナー氏は抗体検査で抗体保有がわかり、血中に新型コロナウイルスがいないことも確認されたが、今も、手洗いの徹底やソーシャルディスタンシングなどの感染予防を行い続けている。

「抗体検査はほとんど何も教えてくれない。抗体の保有が何を意味するのかもわかっていないし、実際に免疫を獲得したのかもわかっていない。医師からも、ウイルスは持っていないが、再感染するかもしれないと言われた」

と話している。

 確かに、陰性が確認された患者の中には、再び陽性になる人がいることも報告されている。

 抗体検査を行い、感染の実態を把握することは重要だ。しかし、抗体保有によりどの程度の免疫ができているかがまだ解明されていない以上、抗体保有者であっても感染予防を続ける必要がある。

 未知の部分が多い新型コロナの解明が待たれる。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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